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見て覚えろ!は酷な要求

当社のような小さい工場では、「職人さん」たちがまだまだ活躍中です。60歳定年とされていますが、70歳を超えても現役でバリバリの方々も多いです。当社で言えば、高齢の職人さんから若手へ引継ぎは終わりました。今、現場で実際の製造を行っている作業者は30~40歳台です。

当社の職人さん的な仕事の引継ぎを終えた過去の経験から思ったこと、それは「見て覚えろ!」は酷な要求、ということです。

昔は見て覚えろ!で仕事を学んだものだ!といういう意見が、特に年配の職人さんの言葉です。今の若い人は・・・と言う意見もありますが、時代が違う、昔と今では仕事が全く変わってしまったので、見て覚える機会は以前に比べてとても減ってしまったと思います。

具体的に言うと、製造業全盛の時代はそもそも「数」がありました。少ない種類を大量に作る時代。納期も今のような短納期のものではなく計画的に生産を進められるので、一日中、同じ作業を繰り返します。同じ作業を繰り返すことで見て覚え、体に作業をしみ込ませるチャンスがありました。でも、今の時代は違います。種類が異なる小さな仕事がたくさんあり、作業を始めれば要求される生産数はすぐに作り終わってしまう。見て覚え、体にしみ込ませる時間は非常に少なくなってしまいました。

この状況は、お付き合いのあるお客さんの業種にもよります。特に自動車関連ですと、まだまだ数が多い。ただ、自動車以外の業種ですと多品種少量生産が主流です。数の多い仕事は海外生産です。国内に残った仕事は多品種少量が多いのが実情です。数量10個未満なんて当たり前です。その状況で、仕事を引き継ぐには、以下のような考えが必要かと思います。

①根気強く教える、②出来るだけ作業を標準化する、③作業者の考える力を養成する、④作業を機械に置き換える

①根気強く教える:言葉通りですが、何度も何度も言葉で教え、作業を見せるということです。一つ一つの作業を覚える速さは人によります。作業の難易度にもよりますが、一回で覚える人と、時間がかかる人がいる。作業が覚えられない場合は何度も教える。教える方はストレスを感じますが、仕方ない。その作業を覚えてもらわないと自分も他の作業に費やす時間が減ってしまう。また、慣れていないともちろん失敗もします。失敗したら終わり!ではなく、いつでもバックアップできる体制にしておく。作り直しのコストは必要なコストに入れておくこと。ただ、失敗に伴うバックアップの大変さは、作業者には分かってもらう必要もあります。どのくらいの金額の失敗か?、他の人がどれだけ動かなくてはならないか?を伝える。そうすれば緊張感は出ます。

②出来るだけ作業を標準化する:多品種少量で数量の少ない作業がどんどん入ってきます。とにかく五月雨式に目の前の仕事をやる!のではなく、作業を細かく分けて、同じ作業を出来るだけまとめられるような段取りをまず考えます。そうすると、一つの注文の数量は少量ですが、作業ごとにまとめれば一回の作業でこなす数量を増やすことが出来ます。だから、仕事を出す業務の方も、製造部のことを考えて、作業しやすように仕事を出す必要があるのです。

③作業者の考える力を養成する:与えられた仕事をマニュアル通りにこなすのではなく、作業者も自力で考える力が必要になります。ではどうやって?これも作業者の能力によってしまいますが、とにかく一回やってみる!とまずは任せてしまいます。これがうまくいけば、今後仕事が入ってくる、のではなく、まず受注してしまいます。そうしないと緊張感は生まれません。仕事を取ってから考えるのです。どうしてもうまくいかない・・・という感覚と、いつまでに納品しないとダメ、という時間的な制約が無いと、本気は出ませんから。でも、独りぼっちにするのはダメです。チーム全体で考えるチームワークが必要です。そのためには、他人の仕事は知りません的な考えはNG。他の人が困っていたら常に気にしてあげる。気遣いです。幸いにも当社の製造部はチームワークは良い方だと思います。なぜか?それは、仕事量に対して若干人手不足なところと、飛びぬけたベテランが不在というところでしょうか。自分たちで何とかしないといけない状況が出来ているということです。

④作業を機械に置き換える:これが根本的な解決方法です。が、難しい。お金も時間もかかります。まずは、本当に人の作業が必要な部分と、標準化出来て機械に任すことが出来る分を見分ける必要がある。多品種少量だとこの標準化が難しいのです。機械が求める標準化は曖昧な標準化ではなく、数値に置き換えることの出来るピンポイントな標準化です。例え標準化できて機械化出来る作業でも、わざわざ機械にやってもらうために段取りするより、すぐに作業者に作業してもらった方が早いのが実情。そこが当社の強みでもあります。ただし、この機械化は今後も考え続けないといけないと思います。一時的な不景気が来るかも知れませんが、人手不足という状況は変わりませんので。

製造業の仕事引継ぎは、ベテランの退職や同業の廃業など今後も増えていきますので、とても大事な仕事です。日本のモノづくりを存続させるためにも必要不可欠です。